検査抑制論と、抑制を主張した主な専門家、及び論者 part2:コロナ新型肺炎とPCR検査

John Nan
Jul 8, 2021
Photo by CDC on Unsplash

以下は、以前の専門家会議、現在の分科会の、尾身会長について論評した文です。これは、Part1とPart2に分けて、検査抑制論と、抑制を主張した主な専門家、及び論者と、その主張をまとめたものの一部です。PCR検査抑制論の概略が分かると思います。Part1を既に公開済みです。Part1をクリックするとみられます。Part1には、厚生労働省、押谷仁東北大学教授、岡部信彦川崎市健康安全研究所所長(分科会会長代理・内閣官房参与)についての論評を記載しています。

尾身会長

BuzzFeed News

2020年7月6日

「無症状者を徹底的に検査すべきか、議論を。 始動した新型コロナ分科会、尾身会長が検査について語ったこと」 千葉雄登 BuzzFeed News Reporter

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/senmonka-bunkakai-1?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharefacebook&sub=0_125191147

このBuzzFeedの記事は、私が思うに、たぶん書き方が悪いせいで、どこがBuzzFeedの記者千葉雄登の記述で、どこが尾身会長の話なのかはっきり分からないのですが、おそらく、下記『』内は、尾身会長の話に対するこの記者の理解ではないかと思われます。『』表記は私が引用のためにつけたもので原文にはありません。

『PCR検査の感度(陽性を正しく陽性と判断する割合)は70%、特異度(陰性を正しく陰性と判断する割合)は99%とされている。単純計算で100人の検査を行った際には、30人の陽性者を見落とす可能性がある』

一方、以下の括弧内は尾身会長の発言の書き起こしと思われます。それによると、尾身会長は2020年7月6日に開かれた分科会の第1回目の会合で、以下のように言っていたと思われます。

「リスクが低いところで、ほとんど感染者のいないポピュレーション(集団)を対象にやると、どんどんと偽陽性が増え、偽陰性が減っていく。これは感染症対策の常識なんです」

その後、以下の『』内の記述が続くんですが、これは、当日の分科会での尾身会長の話を一字一句ではないが、千葉雄登記者が要約したものではないかと思われます。

『仮に1%の人が感染していると思われる1万人に対して検査を行った場合、99人が偽陽性と判定される。この99人は実際には陽性ではないにも関わらず、隔離措置をとられることになる。

また、30人は感染をしているが陰性と判定される可能性がある。この30人は安心して、知らず知らずのうちに感染を拡大する可能性がある。

こうした問題が生じることを理解してもなお、無症状かつ事前確率の低い人々にも検査を徹底的に行うべきなのか。議論を行う上での土台となる、検査の基本的な考え方を尾身会長は改めて提示した』

BuzzFeed News記事の解釈はここで終わっています。

一方、以下は、今度はこのBuzzFeedNewsが報道した2020年7月6日の第一回分科会の、内閣官房のホームページにある議事録を、このMedium記事の筆者である私が論評しているものです。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona1.pdf

この議事録のPDF文書の資料4–1のスライド8には、以下のような記述があります。(スライド上の文句そのまま)

「PCR検査・抗原検査・抗体検査は、いずれも万能ではなく、常に偽陰性、偽陽性という課題がある。例えば、1%の人が感染していると思われる1万人に検査(感度70%特異度99%と仮定する)を実施すると、99人は感染していないのに陽性(偽陽性)となり本来不必要な自宅待機、入院などの措置が取られてしまう可能性あり。また30人の人は感染していても陰性(偽陰性)となり、知らずに感染を広げてしまう可能性あり。(スライド11参照)」

また、スライド11には、以下のように記載されています。(スライド上の文句そのまま)

以下引用

++++++++++++

【感度】:実際に陽性になった人÷実際に感染している人数

【特異度】:実際に陰性になった人÷実際に感染していない人数

(*)本来感染があるのに、陰性となった:偽陰性(30人)

(**)感染がしていないのに、検査が陽性と判断される:偽陽性(99人)人口一万人:1%の人が感染、感度70%、特異度99%

++++++++++++ (引用終わり)

そのすぐ下に、次のような表が掲載されて、下のような解説が入っています。

「実際には、100人しか感染していないのに、ほぼ同数の99人が感染していないにも関わらず陽性(偽陽性)がでてしまう。また、30人は感染しているにも関わらず陰性(偽陰性)と判定がでてしまう」

以下は、このMedium記事の筆者の私自身の記述です。

分科会では、このようにPCR検査について、特異度は99%を前提に議論されています。

最初に書いたように、「リスクが低いところで、ほとんど感染者のいないポピュレーション(集団)を対象にやると、どんどんと偽陽性が増え、偽陰性が減っていく。これは感染症対策の常識なんです」というのは尾身会長自身の言葉と思われます。これと、上記の表の下に書かれている言葉は考え方として基本的に一致しており、かつ分科会は尾身会長が文字通り会長であるため、会長の考えと全く違うことが資料に入る可能性は低いと思われ、尾身会長は、概ねこのような考え方であると思われます。

実際に行われた、「ほとんど感染者のいないポピュレーション(集団)を対象」としたPCR検査では、以下のような結果になっています。

2020年12月14日~2021年1月24日 中国北京市内 1745万人対象 陽性8例

(中国青年網2021年1月26日) https://www.sohu.com/a/446768437_119038

2020年10月中の5日間 中国青島市内 900万人以上対象 陽性12例

(財新網2020年10月12日) http://www.caixin.com/2020-10-12/101613800.html

2021年1月25日-1月26日 中国河北省石家庄市 371万人対象 陽性8例

(北青網新聞2021年1月27日) http://news.ynet.com/2021/01/27/3120327t70.html

2021年2月中旬下旬 日本広島市 6573人対象 陽性4例

(日経新聞2021年3月1日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJB015KI0R00C21A3000000/

これらの結果を見ると、それぞれ全ての陽性例が、本当は陽性でなく、偽陽性であったという、ほとんどありえそうもない最悪のケースを前提としても、特異度は、それぞれ、北京 99.9999、青島99.9999、石家庄99.9998、広島 99.9491 %となります。

これと、分科会で示された前提99%を比べると、素人目には、どちらもほとんど100%に近いから同じじゃないか、というような見え方になりますが、特異度の定義からして、、「特異度」の99%と、99.9X%では、天と地ほどの差があると思われます。

2020年7月6日、第一回分科会の資料4–1のスライド8は、上記の様に、「実際には、100人しか感染していないのに、ほぼ同数の99人が感染していないにも関わらず陽性(偽陽性)がでてしまう」と書いてあり、この条件のもとで、この記述が正しいとすると、本当に感染していて、検査結果も陽性の人が100人、本当は感染していないのに陽性の検査結果になってしまう人が99人でほぼ同数になり、ほぼ二分の一の確率で出てしまいます。しかも、1万人の検査数に対して、感染していないのに感染しているのと同じ扱いを受けてしまう人が、99人発生し、もし100万人検査すると、9900人、1000万人検査すると、99000人、つまり約10万人発生してしまいます。これはたいへんなことです。

一方、上記の報道記事へのリンク付で挙げた、北京、青島、石家庄、広島での実際の検査結果を見ると、そもそも陽性が 中国の場合で45万人から200万人程度について一人、広島の場合で1600人に対して一人程度しか出ていないのですから、これらの検査結果で陽性であった人が全員、本当は感染していなくて偽陽性であった、という普通極端に可能性の低い最悪のケースでさえ、ほぼ100人に一人が偽陽性、という第一回分科会の資料4–1のスライド8の前提とは、まったく問題にならないほど相違しています。

このような、現実とはほど遠い、と思われる前提を元に議論した分科会の尾身会長の責任と、信頼性の毀損は、当然問われるべきです。検査抑制論は、分科会や尾身会長のそれにしても、その他にしても、このような議論が前提となっているのですから。

別に公開済みのPart1は、左のPart1をクリックするとみられます。Part1には、厚生労働省、押谷仁東北大学教授、岡部信彦川崎市健康安全研究所所長(分科会会長代理・内閣官房参与)、岩田健太郎神戸大学教授、についての論評を記載しています。

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